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管理人のつれづれ日記
2025/04/23/Wed
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2010/09/23/Thu

叙述の惑い


 目を閉じていると自らの鼓動がドクドクと煩いほどに高鳴っているのが感じられる。体の内側の血流の速さと、外側を包むぬくもりの熱さに、ミチルは吐息をもらした。眩暈のするような酩酊感。それは彼女を今抱きしめている男がもたらしたもの――では、無かった。
              †
 不在時の空間であれ、その場の主が誰であったのかを雄弁に語っていた。ゲッター炉心に関するデータの束、灰皿の横に置かれたタバコの銘柄と、飲みさしのウイスキー。夜も更けた時間帯にしかも飲酒しながら、という娯楽のように研究に没頭している人間など、早乙女博士か神隼人のどちらかだ。そして嗜好品の種類から言って後者であるのは間違いない。
(まあ今、神隼人は二人いるけれど…)
そう思いながらミチルは数刻前まで予想の人物がいたであろうソファに腰かけた。置かれたデータに関して聞きたい事がある。多分、ちょっとした離席だろうから戻ってきた彼に質問をすれば良い。それだけなのだから「どっち」でも構わない。
 しかし予想に反して、人の戻ってくる気配はしばらく無かった。手持ぶさたになってミチルは目前のグラスを眺めた。中にあるのは琥珀色の液体だけ。
(氷…溶けちゃったのかしら)
それで氷を調達に行ったのかもしれない。研究に夢中になって飲み物を放っておくなど、いかにも彼らしくて、ミチルはくすりと微笑んだ。その気分のままにグラスに口づけて、中の液体を飲んでみる。
普段、軽めの酒しか飲まないが、薄くなったウイスキーなら大丈夫だろうと――
しかし、そもそもの仮定が間違いだったと、即座に気付いた。のどの灼けつくような痛みによって。
(ストレート…!)
火酒、と称される熱い液体が重力に従って、身の内に滑り落ちる。
頬が熱い。鼓動が速まって息苦しい。それらを抑え込もうと、一度強く目を瞑った後――ミチルの体はずるずるとソファに沈みこんだ。
              †
ソファに横たわったその姿を見た時、隼人は驚きの声は発したが「どうした?」とは尋ねなかった。ミチルの上気した頬と、減ったウイスキーの量を推し量れば、どうしたかなんて明白。ぺたぺた、と熱い頬を叩いて呼びかけると、ミチルはううん、と呻いた。
「ほら、起きて。…水を飲むんだ」
とりあえずは、血中のアルコール濃度を薄めなくては。
「んんー。やだ…ねむい」
支えようと背に手を回した隼人の腕の中に、ミチルは力無くうずもれる。このままではまた寝入ってしまいそうで、仕方ない、と隼人はペットボトルの水を自ら呷った。
そのままミチルに口づけると、口中に水を流し込む。
のどがこくり、と鳴って水を嚥下するのを確認してから唇を離す。と、零れた水が口の端を伝う。その雫をも欲しがるように、ミチルの舌がぺろ、と隼人の唇を舐めた。吐く息が、体が熱くて、男の冷たい唇が心地いい。
「もっと…」
目を閉じたままで、ねだる。その望みは常ならば即、叶えられるはずだったが――柔らかな感触は降ってくる事が無かった。疑問に思ったのもつかの間、また冷たい唇が触れて
「ん…ん」
清冽な水が滑り込む。先程の数秒の間は、水を含んでいるその間だったのか。こくこくとそれらを飲み下す間、ミチルの手は隼人の背に回っていた。手が回りきらないその広い背も、触れた鼻先に当たる長い前髪の感触も、自分の頬をなでる長い指も、自分の良く知った「隼人」のものだと感じられて、ミチルは息継ぎをするように、重ねた唇を緩めて、一たび吐息を零した。その開いた唇に、舌先が入り込んだ。
アルコールの濃厚な香りが、絡み合う。
心拍数が、治まらない。身を包むフワフワとした高揚感は、ウイスキーと、彼の口づけと、どちらによってもたらされたものなのか。
――いや、相乗効果で、煽られているのかも。
自らの熱を、もてあまし気味のまま、隼人の胸に顔をうずめたミチルの耳元に寄せられた隼人の唇が、低く、とても低く囁いた。
「いいのか…?」
何が、と質問の意図を掴みかねる。
キスが?嫌かどうかなんて、今更。それとも良し悪しなんだろうか?
「…ん。きもちいい…」
熱に浮かされるまま、言葉を紡ぐ。耳元で笑みの気配が、ふふっとざわめいた。
「素直だな…。酔ってるからか?」
「うん、熱い…。どうにかして…?」
肩口に腕を回せばそのまま抱き上げられた。人ひとり運ぶのを物ともしない膂力も、寄せた頬に伝わる体温も、安心をもたらしてくれる。
このまま、身をまかせる事に、なんら異論なんて無い。
ゆったりと目を閉じて頭を預ける、その無防備な表情を眺めながら、隼人は自室へと歩みを進めた。
(では、望みのままに、お嬢さん)


              †††


「錯誤の誘い」を描いてる時にですね、(「隼人」がどっちか分らない…がポイントなんだったら、読んでる方も分らないのはどう?)と思えてきて…で、どう隼人を隠すかといえば、小説にすればいいんだよね、と。
出てくる「隼人」が41歳なのか、青年なのか外見描写特にナシ、で、判じるべきミチルさんが酩酊状態だったら、分からーん!でも誘われちゃった…どうなる!みたいなのか。と、思って書いてみました。
派生妄想なのでシチュエーションは丸かぶり。

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